私は小さい頃、星の王子さまが好きではなかった。 「大人が書いた子供心の話」というのが気に食わなかった。 「大切なことを思い出す。」 「あの頃の心に戻る」 などという帯を見ると、更に嫌気がさした。 どうせ大人が書いたんだろ。何がわかる。と。 大人…
GWを過ぎてから、梅雨のことも、まだ5月であることも 全く気にかけてくれないような高気温と快晴が続いていた。 この季節の、真っ昼間の日差しが好きじゃなかった。 鬱陶しい。うるさい。自分勝手。そんなイメージ。 気づいたら6月になっていた。 でも、快晴…
おばあちゃん家の牛乳は甘かった。 我が家と同じ生協の低脂肪牛乳に 砂糖をひと匙入れて泡立てる。 ひんやりと冷たくて、ふかふかで、 コクのある牛乳になった。 おばあちゃん家のチョコレートは 魔法みたいに美味しかった。 どこにでもある明治の板チョコだ…
魔法の言葉がなくなった。 少し前までの私は、 気持ちも、音も、匂いも、印象も、 全て色と形になって現れていた。 もう少し前までの私は、 頭の中にもう一人の女の子が住んでいた。 可愛い女の子だった。幼馴染が4人いる女の子だった。バスケットボールが上…
最高気温18度。いつもそれが夏の終わりの合図だった。 コットンベストから半年ぶりの長袖のカーディガンをおろす。 教室を埋める色が、眩しい純白から、一夜にして、グレーや紺やベージュ、たまにピンクのまだら模様に変わる。 後ろの席からその風景を眺める…
駅の正面改札を抜けると左右に分かれる下り坂がある。 その坂を覆うように、まるで命令されたように並ぶその木々が、桜だということを知っていたので、私はこの街に住むことに決めた。 春には一面の桜並木だ。 大学時代にお世話になった先輩が、この街に住ん…